遺言書がある場合は、相続人同士で遺産分割協議をしなくても遺言書の内容に従って相続手続きすることが基本的に可能です。
“自宅は妻○○に、預貯金は長男△△に相続させる”など、遺産の内容ごとに具体的に誰に相続させるか特定されていれば、法的に遺言書の内容通りの相続となり、登記することになります。
ところが、遺言書がある場合でも、まるで遺言書がなかったものと同じように扱われ、相続手続きとして法定相続人全員で遺産分割協議をしなければならないケースがあります。
これは特に、自筆証書遺言の場合にこのようなことが起こります。
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遺言書があっても法定相続人全員で遺産分割協議をしなければならないケースの事例
遺言書があっても法定相続人全員で遺産分割協議をしなければならない場合には以下の事例などが該当します。
(1)自筆証書遺言書で、日付を〇年〇月吉日と記載されている
遺言者が遺言書を作成した日付が特定できないので、遺言書として遺産などに関する箇所は無効になり、共同相続人全員で遺産分割協議をする必要があります。
(2)自筆証書遺言書で、民法の規定通り訂正がされておらず、遺産の内容が特定できない場合
自筆証書遺言の訂正の仕方は民法に厳格に規定されています(民法第968条3項)。
そのとおりに訂正しなければ訂正の効力は生じず、結果として遺産を特定できないという事態になる危険性があります。
そうなると、共同相続人全員で遺産分割協議ということになります。
(3)遺言書に、「私の遺産は、長女□□に任せる」との記載
故人は長女に遺産をあげるつもりで任せると書いたのかもしれませんが、「任せる」がどういう意味なのかが不明です。
遺産分割協議の執り行いを任せるのか、単に管理を任せるのか、それとも長女に相続させて以後財産の管理を任せる意味なのか、いろんな解釈ができてしまいます。
遺言書の前後の文脈などから限定的に解釈できればいいのですが困難を極めます。
こうなると、共同相続人全員で遺産分割協議ということになる可能性があります。
最高裁判所昭和58年3月18日判決では「遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の真意を探求すべきものであり、(一部省略)① 遺言書の全記載との関連、② 遺言書作成当時の事情、③ 遺言者の置かれていた状況、などを考慮して遺言者の真意を当該条項の趣旨を確定すべき」とされております。
当事務所には、以前「○○(不動産)を弟の△△に渡す」という自筆証書遺言書をお持ちになったご依頼者が相談に来られました。
この解釈をめぐり法務局との事前相談で、この遺言書での相続登記に消極的な判断をされましたが、弁護士と協力して、この最高裁判例と下級審判例を引き合いに反論した結果、最終的に相続登記が認められたケースがございます。
もちろん、こうなる前に、解釈に疑義の生じない遺言書を作成するだけで解決する話ですので、遺言書作成の際は、事前にご相談ください。
(4)遺言書に、「○○に相続させる(遺贈する)」との記載があったが、○○が先に死亡していた
遺言者より先に相続する側が亡くなっていた場合、その相続人に権利が承継されるでしょうか?
答えはNOです。
まず遺贈の場合、民法994条1項で「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。」と規定されています。
遺贈の効力が生じないので、上記内容の遺言は無効であり、受遺者の相続人は何ら権利を承継しません。
それでは遺贈ではなく「相続させる」の場合はどうでしょうか。
結論は上記遺贈と同じです。
最高裁判例平成23年月22日判決で、「推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、想定相続人の代襲者その他のものに遺産を相続させる旨の医師を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力は生じない。」としております。
無効となると、共同相続人全員で遺産分割協議ということになります。
もし遺言者が相続する側が先に亡くなった場合にその子や配偶者に相続させたい場合には、遺言書に「仮に〇〇が私の死亡以前に死亡した場合は○○の子△△に相続さる。」という文言を入れておきましょう。
遺言書によるトラブル防止
遺言書によるトラブル防止のためには、下記のことが重要です。
① 遺言書の要件ミスをなくす
遺言が無効にならないよう、作成日は元号〇(西暦)年〇月〇日と特定する、訂正がある場合は民法の規定に従った訂正をする、ペンネームではなく本名を署名し押印する、など必要な要件を充足してください。
② 「任せる」「渡す」などの曖昧な表現は避け、できるだけ「相続させる」「遺贈する」などの明確な表現で作成する
この点が曖昧な表現ですと、弁護士等を加えて各関係機関と交渉する困難が避けられませんし、最悪の場合は無効になります。
③ 公正証書遺言での遺言書作成を検討する
自筆証書遺言は簡単にすぐにでも作成を始められますが、上記のようなミスなどにより後日トラブルになる場合が多々あります。
こうしたリスクを避けるためには、公証役場で公正証書遺言を作成することをお勧めします。
公証人は法律のプロで、無効になるような遺言書の作成はしません。
事前の提出書類の収集や金銭的負担はありますが、せっかく遺言書を作るのですから、遺言者の思いが通じ効力の生じるものを確実につくるためにも、公正証書遺言書の作成を強くお勧めします。
④ 遺留分侵害に注意する
兄弟姉妹以外の相続人には遺留分があります。
遺言が相続人の遺留分を侵害している場合、遺言により遺産を取得した方に対し、遺留分侵害額請求訴訟を提起される危険性が高いです。
遺留分は強行規定であり、遺留分のある相続人が自ら放棄しない限り存続する強い規定です(時効・除斥期間はあります)。
あとから遺留分請求、あるいは相続人全員で遺産分割協議をすることがないよう、遺言書作成の際は遺留分に注意して作成してください。
遺言書の内容と異なる遺産分割協議は可能か
遺言書は適法に成立しているものの、遺言書の内容と異なる形で遺産を承継することは可能でしょうか?
相続人全員の同意があれば遺言書の内容と異なる遺産分割をすることは可能です。
ただし、法定相続人ではない方が遺言書で遺贈を受けている場合、受遺者が遺贈を放棄しない限り難しいでしょう。
また、遺言書で遺産分割をするなという遺産分割禁止条項がある場合は不可です。
遺言書と異なる遺産分割をする場合の手順は遺言書がない場合の遺産分割協議と変わりありません。
ただし、法定相続人全員の真意をもって同意することが肝要ですし、できるだけ故人の意思を尊重した遺言書に沿った内容にすべきでしょう。
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