遺言書を作成するメリットとその必要性

人生の大切な節目や将来を見据えた備えとして「遺言書」を作成することは、家族や大切な人々への思いやりを形にする重要な手段です。遺言書を作成する必要性やそのメリットについて、わかりやすく解説します。

1. 遺言書の必要性とは?

遺言書は、財産をどのように分けるかや、家族に対する希望を具体的に示す法的な文書です。

遺言書がない場合、遺産分割は民法で定められた法定相続分に従って進められます。

しかし、以下のようなケースでは、遺言書があることでスムーズかつ確実な相続が実現します。

  • 財産の分配を特定の人に多く残したい場合
  • 法定相続人以外の人に財産を分けたい場合(例:内縁の配偶者、特定の友人)
  • 特定の財産を誰に継がせるかを指定したい場合(例:自宅を長男に、預貯金を次男に)

遺言書は、相続における意思を明確にするだけでなく、家族間のトラブルを未然に防ぐためにも重要です。

2. 家族の安心につながる遺言書

遺言書を残すことは、残された家族への配慮といえます。遺言書があることで、以下のような安心感が生まれます。

家族の負担軽減

遺言書があると、遺産分割のための話し合いが不要になる場合が多く、家族の手続き負担が軽減されます。

家族の絆を守る

財産をめぐる話し合いが原因で家族間の関係が悪化するケースは少なくありません。遺言書によって、家族間の無用な争いを避けることができます。

特定の希望を伝える

財産分配だけでなく、葬儀の希望や家族への感謝の言葉を遺言書に記すことで、思いを伝える手段としても役立ちます。

3. 相続トラブル防止のために

遺産分割をめぐるトラブルは、遺言書がない場合に特に多く発生します。例えば、以下のような問題が起こる可能性があります。

相続人間の意見の対立

財産の分割方法や割合を巡って相続人が対立し、話し合いがまとまらない場合があります。

相続人以外の人への財産分配

遺言書がなければ、法定相続人以外の人が財産を受け取ることはできません。これにより、内縁の配偶者や支援を受けていた友人などが不利益を被る可能性があります。

遺言書を作成することで、これらのトラブルを未然に防ぎ、相続手続きをスムーズに進めることができます。

4. 遺言書の法的効力

遺言書には法的効力があり、相続における最終的な意思を示すものとして扱われます。ただし、有効な遺言書として認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。

形式の遵守

遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。それぞれに法律で定められた形式があり、要件を満たしていない場合は無効になる可能性があります。

内容の明確性

遺言書の内容が曖昧だったり、矛盾している場合、相続手続きが円滑に進まないことがあります。適切な書き方や表現が求められます。

司法書士や専門家に相談することで、法的に有効かつ漏れのない遺言書を作成することができます。

5. 遺言書作成を強くお勧めするケース

① 兄弟姉妹の仲が悪い

兄弟姉妹の中が悪い場合は、かなりの確率でモメます。

兄弟姉妹の間には、生前に親にしてもらったこと、親にしたことでわだかまりが残っている場合が多いからです。

例えば「兄は住宅の購入資金を出してもらった」と弟がいえば、兄は「俺は親の側にいてずっと面倒を見てきた」と争い、関係破綻する場合があります。

残された家族の状況を踏まえて遺言を残すことで、争族を回避できます。

② 結婚した相手に連れ子がいる

結婚した相手に連れ子がいる場合には注意が必要です。

連れ子と養子縁組をしなければ、連れ子に相続権はありません。

実子と同様に可愛がっていたとしても、連れ子が献身的に世話をしてくれていたとしても、遺産を相続することはできないのです。

当事務所にお越しになる方の中にも、司法書士が戸籍をチェックして、養子縁組がなされておらず、相続権がないことをお伝えするとビックリされます。

連れ子と何十年と一緒に生活をしてきているし、同じ戸籍に入っているから相続権があると勘違いしていたのだと思います。

遺言書を作成することで連れ子にも財産を残せる連れ子に財産を残すには、生前に養子縁組を行うか、遺言書を作成して遺贈を行う必要があります。

③ 先妻・後妻ともに子供がいる

先妻とは法律上の婚姻関係が解消していますので、先妻に相続権はありません。

しかし、先妻との間にできた子供には相続権があります。

そして、後妻との間にも子供がある場合は、後妻や後妻との子供、先妻との間の子供が相続人となります。

このような場合に、遺産について何も対策をしなければ、遺産分割をするときにモメる可能性が非常に高いです。

遺言書を作成することで自分の意思に沿って財産を分けることができます。

遺産分割協議も不要で、トラブルを防ぐことができます。

④ 内縁の配偶者やその人との間に子供がいる

内縁の配偶者は、法律上の婚姻関係がないため、内縁の配偶者には相続権はありません。

また、内縁の配偶者との間の子供は、認知をしていなければ、相続権がありません。

内縁の配偶者やその人との間の子供に相続権がない場合、親が生きていれば親が相続し、親が亡くなっていれば、兄弟姉妹が相続してしまいます。

遺言書を作成することで内縁の配偶者に財産を残すことができます。

内縁の配偶者との子供に財産を残すことができます。

また、遺言で子供を認知することもできます。

⑤ 相続させたくない相続人がいる

親不孝な子供や、家族に迷惑をかけ続けてきた身内に財産を継がせたくない、また、先妻との間の子供とうまくいってないので、相続させたくない等、相続させたくない相続人がいるといったケースの相談も多くあります。

このように考えたとしても、遺言を残さない限り、遺産は法定相続分にしたがって相続されてしまいます。

また、相続させたくない相続人の相続分をゼロとする遺言を残しても、遺留分侵害額請求権を行使されると、遺留分相当は取り戻されてしまいます。

相続させたくない相続人の相続分をゼロにするには、「廃除」という手段があります。

「廃除」は生前にもできますが、遺言によってもできます。

遺言によって「廃除」を行うには、遺言書に「廃除」の意思とその理由を書き、遺言執行者を指定します。

もっとも、家庭裁判所で「廃除」が認められるケースはあまり多くなく、ハードルは高いと言えます。

したがって、遺言書には廃除が認められた場合のケースと認められなかったケースの両方を明記しておくことが望ましいでしょう。

⑥ 子供がいない

子供がいない場合は、親が生きていれば配偶者が3分の2、親が3分の1を相続する権利があり、親が死んでいれば、配偶者4分の3、兄弟姉妹が4分の1を相続する権利があります。

また、兄弟姉妹がすでに亡くなっていれば、兄弟姉妹の子供である甥・姪が相続する権利があります。

配偶者からすれば、亡くなった方の親や兄弟姉妹は、血の繋がっていない他人です。

生前は、特に問題なくすごしていた場合でも、亡くなった瞬間に関係が悪化してしまう場合も多くみられます。

遺言書を作成することで財産を分けたい人に残すことができます。

残された配偶者と故人の親族との遺産トラブルを防止のためにも、遺言を残しておくべきです。

⑦ 面倒を見てくれた婿や嫁がいる

婿や嫁は、相続する権利はありません。

しかし、婿や嫁が長年にわたって同居をし、身の回りの世話をしてくれたり、介護をしてくれたりするケースは少なくありません。

このような場合、配偶者は子供たちに「私が亡くなったら、婿や嫁に財産を分けてくれ」と口約束をしていても、それが守られるとは限りません。

遺言書を作成することで面倒を見てくれた婿や嫁に財産を残すことができます。

面倒を見てくれた婿や嫁に財産を残すには、遺言書を作成し遺贈する必要があります。

⑧ 相続人がいない

相続人がおらず、特別縁故者もいないという場合、遺産は国庫に帰属することになります。

遺言書を作成することで財産を残したい人に残すことができます

このような場合でも、お世話になった人に財産を残したり、公共団体等への寄付をしたいと考えるなら、遺言書を作成しておく必要があります。

この場合は、遺言執行者をも併せて指定しておく必要があります。

⑨ 相続人が多い

相続人が多いケースとしては、子供が複数いる場合、代襲相続が発生している場合、養子縁組をしている場合等が考えられます。

80~90歳の世代の子供さんたちは、生まれた地から、様々な地域へ行って生活基盤を築いている場合も多く、関係の疎遠から、遺産分割の話し合いが困難になる場合が多くみられます。

各自の生活がありますので、みんなが集まって話し合う機会を持つことはなかなか厳しいからです。

このような場合の対策としても、遺言が効力を発揮します。

遺言で誰がどの財産を引き継ぐのかを明確にしておき、それを実行するために同時に遺言執行者を指定しておくといいと思います。

相続人間で調整が困難になる場合も予想されますので、第三者が間に入った方が、感情的にならずに、うまくまとまる場合が多いからです。

この場合の遺言執行者は、相続の専門家を選任することをお勧めします。

⑩ 行方不明の相続人がいる

ずっと連絡の取れない相続人や戸籍を調べた結果、行方不明の相続人がいる場合があります。

行方不明とはいえ相続人ですから、遺産分割協議はこの行方不明者も参加して行う必要があります。

行方不明の相続人がいる場合に、遺産分割協議の手続きを進めるためには、「不在者財産管理人」の選任や、場合によっては「失踪宣告」の手続きをする必要があります。

このようなケースでは、遺言書を作成することで遺産分割協議は不要になり、手続きが円滑に行きます。

遺言によって、相続分の指定及び遺言執行者を指定すれば、遺産分割協議は不要となりますし,遺言執行者が相続人に代わって遺言通りに手続きを進めてくれます。

⑪ 未成年の子がいる

親権者と未成年の子が相続人の場合、遺言書がないと、未成年の子に特別代理人を家庭裁判所に選任してもらう必要があります。

遺言書で相続分や遺産分割の指定がされていれば、その必要がなくなります。

また、自分以外に親権者がいない場合、遺言書で信頼できる人を未成年後見人として指定できます。

未成年後見人には親権者と同様の権利義務が与えられます。

つまり、子供を保護したり、財産を管理したり、教育したりすることができます。

一番信頼できる人を未成年後見人に指定しておきましょう。

⑫ 自営業の場合

個人事業を行っている場合、事業用の資産は故人名義となっている場合がほとんどです。

この場合に、経営者が亡くなると、事業用資産は相続財産となり、各相続人が権利を主張することができます。

事業用の資産を各相続で分けてしまうと事業の継続が困難になります。

遺言書を作成することで、事業する能力がある相続人に事業を承継させることができます。

事業を承継させる相続人に、事業用の資産を中心に他の相続人よりも多くの財産を相続させる等の遺言を残しておくべきです。また事業の貢献した後継人である相続人には、寄与分を考慮した相続分を指定することもできます。

6. 遺言書作成を司法書士に依頼するメリット

遺言書は、自分で作成することも可能ですが、法律の知識が求められるため、専門家のサポートを受けることをおすすめします。

司法書士に相談することで、以下のメリットがあります。

法的チェック

遺言書の形式や内容に問題がないかを確認し、確実なものにします。

複雑な財産分割への対応 

動産や株式、負債などが絡む複雑な相続にも対応可能です。

遺言執行者の指定

遺言書の内容を実現するための遺言執行者を指定することもサポートします。

まとめ

遺言書の作成は、家族への思いやりを形にする重要な手段です。財産分割をスムーズに進め、家族間のトラブルを防ぐためにも、早めの準備をおすすめします。

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