本籍を異動させることの無意味|相続手続きで困らないために

「本籍を現住所に移したい」というご相談が増えています

当事務所には、「本籍地が遠方にあるので、現在の住所に移したい」というご相談をいただくことがあります。引越しのタイミングや、免許証の更新時に本籍地が遠いことが気になって、という方が多いようです。

結論から申し上げると、本籍の異動(転籍)は、ほとんどの場合メリットがなく、むしろデメリットの方が大きいです。特に相続手続きの観点からは、安易な転籍はおすすめしません。

そもそも「本籍」とは何か

本籍とは、戸籍が置かれている場所のことです。住所(住民票の所在地)とは別の概念で、日本国内であればどこにでも自由に設定できます。皇居の住所や東京タワーの住所を本籍にしている方もいます。

本籍は単なる「戸籍の管理番号」のようなものです。本籍地に住んでいる必要はなく、本籍地と現住所が異なっていても、日常生活で不都合が生じることはまずありません。

本籍を異動(転籍)しても意味がない理由

理由1:戸籍謄本は全国どこからでも取得できる

2024年3月から戸籍の広域交付制度がスタートしました。これにより、本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍謄本を取得できるようになりました。

以前は「本籍地が遠いと戸籍を取るのが大変」という不便がありましたが、現在はその問題は解消されています。わざわざ本籍を移す最大の動機がなくなったのです。

理由2:相続手続きで集める戸籍が増える

これが最大のデメリットです。相続が発生すると、亡くなった方の出生から死亡までの全ての戸籍を集める必要があります。

本籍を異動すると、異動前の市区町村の戸籍(除籍謄本)と異動後の市区町村の戸籍の両方を取得しなければなりません。転籍を繰り返した回数だけ、取得先が増えます。

たとえば、本籍を3回移した方の場合、4つの市区町村から戸籍を取り寄せる必要があります。それぞれの役所に請求が必要になるため、手間も費用も時間も増えるのです。

理由3:転籍前の情報が新しい戸籍に載らないことがある

転籍すると、新しい本籍地で新しい戸籍がつくられます。このとき、転籍前の戸籍に記載されていた情報の一部が新しい戸籍に移記されないことがあります。

たとえば、すでに除籍された(婚姻等で抜けた)子の情報は、新しい戸籍には記載されません。相続手続きでは全ての子の存在を確認する必要があるため、結局は転籍前の古い戸籍も取り寄せることになります。

理由4:現住所と本籍が同じでも便利になることはほぼない

「本籍が現住所と同じなら便利」と思われがちですが、実際に本籍地の情報が必要になる場面は限られています。パスポートの申請や婚姻届の提出などですが、いずれも戸籍謄本を添付すれば済む手続きです。本籍が近くにあるかどうかは、広域交付制度の開始後はほぼ関係なくなりました。

本籍を異動した方がよいケース(例外)

例外的に、転籍が合理的な場合もあります。

  • 本籍地の市区町村が合併で消滅した場合 — 手続きが煩雑になる可能性があるため
  • DV被害等で現住所を秘匿する必要がある場合 — 本籍地から住所を推測されるリスクを避けるため

上記のような特別な事情がない限り、本籍はそのままにしておくことをおすすめします。

まとめ:本籍は「動かさない」が正解

  • 本籍を移しても日常生活で便利になることはほぼない
  • 2024年3月から戸籍の広域交付が始まり、遠方の本籍でも不便はない
  • 相続手続きでは、転籍するたびに集める戸籍が増えて手間が増大する
  • 転籍前の情報が新戸籍に移記されないことがあり、結局古い戸籍も必要になる

「本籍を移そうかな」と思ったら、まずは立ち止まってください。将来の相続手続きのことを考えると、本籍はそのままにしておく方が、ご家族の負担を軽くすることにつながります。

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